光♂エメのif世界線の短文。

自機ヒカセンとモブ女の関係性があった描写があるし、光エメの恋愛要素は薄い。

「悪いけどナハトは今いるかしら?」
ドアを明けた瞬間から安っぽい香水を鼻につく程に纏っている女が腕を組んで目の前に立っていて眉を顰める。
容姿を見遣れば化粧も濃く、明らかに廃退した街で生きるため身を売る安い娼婦と理解してこめかみすら痛くなった。あのバカが手を出した女なのは明白である。今ここにはいないことを告げれば出直すだろうと踏んで「出かけている」と正直に答えた。
「そう、なら家に入れてもらえるかしら?彼が戻るまでずっと待つつもりなの」
「外で待つのは嫌だから中に入れろ」と言われれば、よくもまぁ図々しい女だと思いながら口論するのも面倒になるものだ。家の中へ招くジェスチャーを一つ。女は鼻をフンと鼻を鳴らしてはヒールをカツカツ鳴らしながら先日滞在する為に借りた部屋へと足を進める。女の背に恨めしい奴を思い浮かべて今日一、大きなため息を溢した。アシエン・エメトセルクであった頃の私であれば即座に!この場から!消えていたであろう!と。

「ところで貴方、あの人の何?」
「私のことなどどうでもいいだろう」
女は椅子に腰掛けた途端に聞いてもいないことをベラベラと話し始め、挙げ句の果てに「話し相手の一つもできないの?」「あの人といるのだから随分とおしゃべりな人だと思ってたのだけど」などと口が回り回っても止まることを知らぬようだ。鬱陶しさに厭になりながら冷めてしまったコーヒーに口をつける。時間の経過で空気に触れすぎ、劣化した味が舌に残りさらにゲンナリとする。全てに向けて苛立ちが勝り「私がアイツの恋人だと言ったら?」と冗談混じりに投げかけてやれば「ありえないわ!貴方みたいな男!とても偏屈で面白くもない!そもそも貴方は男じゃない!冗談すら下手なのね!」と品のない笑いと共に成り損ないに価値の無い存在として扱われたことに更なる苛立ちを覚える。
センスのかけらもないはしたない声をあげて笑う女に「豚のように鳴くじゃないか!だから逃げられたのでは?」と嗤ってやろうとした瞬間、「そうか?お前みたいな下品な口を聞く女よりもよっぽど可愛げも面白いところもあるだろ」と私が考えたことに近しい嫌味の効いた声が飛んできたのを私も女も同時にリビングの入り口の方へと目を向ける。

「ナハト!!私、貴方をずっと探していたのよ!?どうして私を置いていったの!!」
女は勢いよく椅子から立ち上がってはリビングの出入り口で腕を組んで寄り掛かっているナハトアンファングに駆け寄り抱きついてみせた。
先程の傲慢な態度は何処へやら、シクシクと泣く声が聞こえていることに不快な気分になる。が、抱きしめられた男の顔は「なんだコイツ」と言わんばかりの不快指数の高い表情をしていて不覚にも声を出して嗤いそうになるのを必死に押さえつける。
「悪りぃけども昔に相手した女なんてもう忘れてんだよ。そもそも何年前に相手した奴だよお前……」
「酷いわ!!あなたの子供も産んだのに!!」
子を成した、という女の言葉を聞いて横目で呆れながら睨みつければ、渋いモノを口にしたような顔で此方を見つめ返してくる。
恐らくは英雄サマの言い分が正解なのだろうがヤッた女の記憶を失ってる時点で互いに信憑性を認められないので「私は外野だ」と呆れて見せて奴から目を離した。

話は結局のところ陽が落ちる頃合まで平行線で「後日また話し合おう」とナハトが一方的に追い返したところでひと段落ついたようだった。話し合いの一部はしばらくぼんやりと眺めていたが、途中で飽きて最近手に入れた書物を一通り読み終えたところで栞を刺す。その動作をする私を恨めしく、椅子にどっかりと座って見ている男のことなど自業自得なので気にする必要はないのだ。

「私を見るな。お前のせいだろ」
「生きる為に抱いてた昔の相手なんて覚えられるかよ」
そこそこ精悍な顔つきをする男のぶすくれた顔に呆れつつも、確かに身売りした相手のことなど、事実どうでも良いことかと肯定する。私が助けなかったことで恨まれるのは話が全く変わってくるので巻き込まれた鬱憤を込めて嫌味の一つを投げてやろう。
「世界を救う英雄サマが聞いて呆れる」
「勝手に呆れてろ!とにかく荷物纏めてここを出るぞ!」
ナハトはバッと立ち上がり地面に落としてあったバッグにあれやこれや散らかしていた加工道具や石などを無造作に放り込んでいく。
「なんとも酷い男だなぁ」
「あんな話の通じない奴の相手をまた陽が暮れるまでするのなんて頑固ゴメンだ」
お前だってそうだろ!?と、あれだこれだ手を休めずバッグに放り込みながら喚く男を否定出来ないのだから、また私も最低な男なのだろう。在りし日の魂に対して似た者同士と思った事など一度も無かったが。

「こうしてみるとお前も私も大概似てたのかもな」